星色ガールドロップ第一話
「大地ー。お母さんたちもう行くわよ~」
本当ならもう少し寝ていたいところだけど、これも親孝行と思って未だ愛してやまないお布団さんを求める体を引きずって階段を降りる。
ふわぁ…と、あくびが漏れ出てしまうのはご愛敬。
俺の名前は平大地。いたって普通の高校生だ。
今日から両親が海外出張!
思いっきり羽のばしてやるぜぇ!
というのはまぁ高校生誰しも思うことだと思う。確かに一人で全部の家事をやるのは骨が折れるが、それと引き換えの自由の味は何者にも代えがたい。
内心ウキウキしながら両親の背中を見送る。
これが俺が見る最後の両親の背中だった…。
なーんてことにはならず、母親が少し厳しい表情で振り向く。
「あ、そうだ。大地。あんまり“そそぐちゃん”に迷惑かけちゃだめよ?
じゃ、いってくるわね」
玄関の扉は小さな音を立てて外界と今日からは俺だけのテリトリーである家を遮断する。が。俺の気持ちはこれからの自由ではなく、母親から告げられた言葉の方に向いていた。
「そそぐ…だれ?」
「今日からお世話になります」
ぺこり、と頭を下げたのは一般的に言えば可愛いと分類していい同年代の女子。
どうなってんじゃあああ!!???と中指立てたい気持ちをなんとか抑えて心の中で両親に毒づく。
(今どき幼馴染で許嫁とは言え大人がいない空間に年頃の男女を一つ屋根の下に放り込むか普通!?
っていうかその設定いつ生えた!? 幼馴染とかいた覚え皆無なんですけどおおお????)
「あの…大地くん?」
「ん、ああ、悪い…ちょっと考え事」
どう考えたってめんどくさい。めんどくさいけれどどうやらこれが現実というものらしい。さようなら、俺の自由な時間。
広い家にひとりきりなら服着る必要性すらねーなって思ってたのにこれじゃ出来ないじゃないか。
「とりあえず、空き部屋使ってくれる? 案内するから」
思い返せば母親がせっせと書斎を空き部屋に改造していた気がする。
あれは模様替えというより、彼女の部屋を作るためだったんだろう。
よりにもよって隣の部屋。自由どころか突然狂ったように歌い出すことすらできないだろう。隣の家には流石に聞こえないだろうが、隣の部屋ならまず間違いなく聞こえてしまう。
グッバイ、俺の自由。
「あ、うん…」
俺の顔色を窺ってか知らないが彼女の元気がない。
いや、それも当然か。俺が全く覚えていないように、彼女も俺の事をそんなに覚えていないのかもしれない。
よくわからない男とこれからしばらく一つ屋根の下なのだ。不安にならないはずがない。
けれど、俺自身も今回の事でまだ混乱が収まっていないのだ。
申し訳ないが最低限の案内をして、自室に引きこもらせてもらおう。
案内と言ったってごく普通の一軒家なのだからそこまで時間はかからない。
個人のスペースには立ち入らないこと、親の部屋も基本はいらないでほしいことを告げて、俺は自分の部屋へと戻った。
ボスン、とベッドの上に身を投げ出す。
ついでに枕に顔を埋めて、小声で叫んだ。
ヴォオオオオオオオオみたいなデスボをあげた気持ちだが、一応音にはなっていない、はず。
どうしてこうなった。
ひとしきり疲れるまで叫び、ついでに広くはないベッドの上をごろんごろんとのたうち回った。疲れた。
面倒ごとを出来る限り回避してきた身としてはとてもしんどい。
どう考えたってほぼ他人の同年代の異性との共同生活は疲れるだろう。
「可愛い子とラッキースケベフラグでありますなデュフフ」とか言える人は出来れば今から俺と境遇を変わってくれまいか。なんて思う程度に、疲れる。
「……めんど」
ごろり、と仰向けに寝がえりを打つ。
これからどうしたものか。そう考えている俺の耳に、壁一枚隔てた部屋から声が聞こえてきた。
あぁ、やっぱり隣の部屋なら音漏れはしちゃうんだよな…。
そう考えながら耳を澄ますと、どうやらそそぐが歌を歌っているようだった。
正直言えば自分のテリトリーを侵食されているようでちょっと嫌だ。
嫌だけれど、その点以外は悪くないと思えるのがなんだか悔しい。
端的に言えば、彼女の歌声はかなり上手いようなのだ。
までは妄想した。
妄想したけどそもそもアンソロ売ってるじゃん
ここから一緒に夕食を食べがてら歌の話をしてアイドルだってことが発覚したり、だからスキャンダルは厳禁なんですぅって展開があって…とか。
妄想した後で「公式があるのでは!?」と気付いて検索したらありました。
…うん、あった。
アンソロジーもあった。
星色ガールドロップ コミックアンソロジー (WINセレクション)
- 作者: bkub,他
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今回は歌もたっぷり盛りだくさんで「アニメとは…????」ってなれることうけあいです!
ではでは
2018.01.16 リライト
普段は文アル好きなブログ主冬島が
文豪雑学についての記事を更新しています